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「第6回かつしか文学賞」受賞作品決定!

―舞台は葛飾。心に響く作品(はなし)が寄せられました―

『小合溜井(こあいためい)
舘狛(たてこま)さん
1958年生まれ
東京都港区在住

【受賞の言葉】

この度は、身に余る光栄に存じます。心より御礼申し上げます。拙作『小合溜井』は、江戸中期の葛飾の治水史を題材にした作品です。葛飾区が公開する電子版「葛飾区史」の豊富な資料を手掛かりに、史実の物語化に挑戦いたしました。歴史的事象が創作した登場人物たちの歩みを通じて、少しでも実感として伝わりましたら幸いです。誠にありがとうございました。

【あらすじ】
江戸時代中期、利根川氾濫で両親を亡くした清吉は、類まれな絵の才を活かし、故郷の水保全を志す。清吉の志は、治水家・井澤弥惣兵衛に見出され、幕府に宛てた「小合溜井普請」建白書へと昇華する。地域住民との合意形成や豪雨災害という困難を乗り越えて完成した小合溜井(現在の水元公園)を語る創作歴史小説。



『新中(にいちゅう)オカルト部、始動!』

三浦 菜々美(みうら ななみ)さん
1999年生まれ
ゲームプランナー
東京都葛飾区在住

【受賞の言葉】
この度は優秀賞をいただきありがとうございます!
初めて受賞した作品が、自分の育ってきた葛飾の文学賞であるのも非常に感慨深いです。
作品を作るにあたって、『葛飾っぽさ』の逆張りをしてプロットを練りました。その結果、中学生が主人公の青春ファンタジー小説になりました。だけど葛飾が舞台である理由もある作品になったと思います。
この経験を胸に、今後も創作活動を楽しく続けていけたらなと思います!

【あらすじ】
柴又に住む中学生の神代さくらは、最近不思議な夢ばかり見ていた。そんなある日、教室に現れたのは浮世離れした美少年の万福蓮。彼との出会いを機に、日常は一変する。河川敷で遭遇した「野球がしたい」と願う幽霊。ありえない光景を共有した仲間たちと、私たちは非公認の「オカルト部」を結成することになり……。


『ミズモトニクス』
増田 峯生(ますだ みねお)さん
1962年生まれ
コピーライター
東京都葛飾区在住

【受賞の言葉】
いい年をして、等身大か背伸びかそれとも謙虚でいるか、時折迷ってしまう。いい年だからか、感情の起伏をコントロールしがちになる。だけど今回、かつしか文学賞の優秀賞受賞の連絡をいただいた時は、いやぁ本当に嬉しかった。大賞じゃないから喜べないなどと、背伸びする気にもならなかった。ありがとうございます!続けていると、きっと良いことがある。そう確信を持って、今後も迷いながらも楽しみながら書き続けたいと思います。

【あらすじ】
中年カメラマン水野英二は、水元公園で小型恐竜だと思われる生物を匿う中学生・五十嵐修と遭遇。怪我で動けずにいた生物を修が保護し、ゴールドと名付け密かに世話をしていたのだ。水野は金儲けの好機と考え、修は水野を嫌い不信感を抱く。反発しながら秘密を共有する二人。やがてゴールドは回復し、解放する日が迫る。


『ムシオさん』
常夏 みゆう(とこなつ みゆう)さん
1998年生まれ
フリーライター
茨城県常陸太田市在住

【受賞の言葉】
この度は優秀賞を頂き、誠に光栄です。選考委員の先生方にも感謝致します。
華やかな世界に注目が行き、身の回りのささやかな出来事には光が当たりにくい時代だと感じています。
そんな中、発達障害等のテーマに光を当てた作品を書けたらと思いました。昔ながらの情緒が残る葛飾区という街と書きたかったテーマが溶け合い、最後まで書き切ることができました。小説を通して微かなきらめきを感じ取ってくれたら嬉しいです。

【あらすじ】
葛飾区亀有で暮らす健太は幼稚園に行けなくなり、柴又の矢切の渡しへ通う日々を送っている。母の優子はシングルマザーとして生活に追われながらも、その静かな習慣に寄り添い続ける。船頭ムシオさんとの交流を通じ健太の世界はゆっくりと広がり、親子はひと夏の中で小さな変化を迎えていく。

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【選考委員選評】

宮崎 美紀子(みやざき みきこ) 東京新聞文化芸能部長

語り継ぎたい葛飾の歴史、風土、自然

 

『小合溜井』は葛飾の子どもたちに、この先も長く読んでもらいたいと思える作品でした。水害からどうやって故郷を守るのか――それは、この物語の舞台である江戸中期だけではなく、令和の今も続く地域の課題です。他にも現代人が学ぶべきこと、共感できることが詰まっています。葛飾の地理と歴史。河川がもたらす恵みと脅威。地域に根付く共助の精神。先人が守ってきた古い溜井を捨てる苦渋の決断。おまけに歴史上の大スター、将軍吉宗まで登場!
時代ものであることと、言葉や文字では説明が難しい河川、溜井の構造は舞台化のネックどころか、表現の可能性を広げてくれそうです。これまでにない舞台化に期待が膨らみます。ストーリーそのものの面白さでは『ミズモトニクス』を一番に推しました。ミニ恐竜が水元公園に生きているという設定が、まずワクワクします。生意気に見えて意外と素直な少年と、やさぐれているのに実はお人好しなカメラマンの連帯も魅力的でした。『新中オカルト部、始動!』は新宿が舞台。新宿と書いて「にいじゅく」。葛飾トリビアがタイトルに入っているのがミソです。葛飾といえば柴又や立石だけではないですから。怪奇現象の謎解きはちょうどいい難易度で、読み進めると「あれのことか?」と推理がズバズバ当たるのが快感でした。
今回は『ムシオさん』を除き、大洪水、恐竜、怪奇といった大きな出来事がストーリーを転がしていく作品が評価されました。ささやかな日常の中のこまやかな心の動きを軸にした作品に良作が少なかったのは残念です。

宮崎美紀子プロフィール:
1969年、兵庫県生まれ。1992年、中日新聞社入社。
東京新聞(中日新聞東京本社)で主に放送、演劇など芸能全般を取材。社会部TOKYO発面デスクを経て、2023年から現職。



山口 恵以子(やまぐち えいこ) 作家

人時代劇、SF、ファンタジーとバラエティーに富む!

全六回を通して時代小説が大賞に輝いたのは今回が初という。その事実が受賞作『小合溜井』が優れていることの証左と言えるだろう。重厚な歴史小説で、まるでNHK大河ドラマを観ているような気がした。入念な調査に基づいた物語は、事実とフィクションを織り交ぜながら、怒涛の勢いで進んでいく。主要登場人物のキャラクターがきちんと描かれ、それぞれの見せ場がある。出来れば五百枚くらいの長編として読みたい題材だと思った。
 『新中オカルト部、始動!』は『小合溜井』とは対照的な、明るく楽しい軽めの作品。「七福神がお化けになる」というアイデア一発勝負が潔い。こういう作品は「面白いのは作者だけで、読者はつまんない」となる場合が少なくないが、作者は「軽い」と「阿呆い」の匙加減をよく心得た、楽しい作品だ。
 『ミズモトニクス』も、「水元公園にミニ恐竜がいた」というアイデア一発に懸けた作品。中年男と男子中学生のかみ合わない会話がユーモアを生む。水野のダメっぷりが欠点ではなく愛嬌になっているところに、この作品の真骨頂があると思った。
 『ムシオさん』は、障害を持つ少年と孤独な初老の男のひと夏の交流を、平易な文章で描いていて好感を持った。私は自閉症スペクトラムについて知らなかったので、興味深く読んだ。誰も不幸にならないラストも、この作品に相応しいと思う。
 今回、「書きたいイメージが先行してストーリーが追いつかない」作品が目についた。読者にリアリティを感じさせ、納得を得るには、入念なキャラクター造形と丁寧なストーリー作りが欠かせない。

山口恵以子プロフィール:
1958年、東京都江戸川区生まれ。
早稲田大学文学部卒業。松竹シナリオ研究所研究科修了。
宝石店の派遣店員をしながら脚本・小説を書き続け、大手新聞販売所の社員食堂で働いていた2013年に『月下上海』が第二十回松本清張賞受賞。「食堂のおばちゃんが文学賞を取った」と話題になる。翌年、12年間勤務した食堂を退職し、専業作家に。テレビ・ラジオ出演もある。
著作『食堂のおばちゃん』シリーズ(ハルキ文庫)、『夜の塩』(徳間書店)、『婚活食堂』(PHP文芸文庫)、『ゆうれい居酒屋』(文春文庫)等、多数。2023年テレビ東京にて菊池桃子さん主演『婚活食堂』テレビドラマ化。



関 知良(せき ともよし) 早川書房 取締役待遇編集本部長

葛飾の風土と人が育む魅力あふれる物語

作者が思いを込めた文章を読み進めていくと、それぞれの個別な物語の中に普遍のテーマが見えてきます。今回の応募作から『小合溜井』を強く推しました。時代を超えた壮大なスケールのお話を、魅力あふれる登場人物とリズムの良い文章で語ります。自然との対話、伝統と革新、師弟の絆と成長、郷土愛ーー。「水に怯えぬ安らかな日々を送りたい」という言葉は、二つの大きな川に囲まれた葛飾に"水に奪われた過去"から"水と共に生きる未来"を創るという、史実に基づいた切実なメッセージとして響きます。私たちが水元公園にくつろぎながら、この場を作り上げた先達の苦労と偉業、そこで交わされた言葉や熱に思いを馳せるきっかけとなるでしょう。
『ミズモトニクス』は、中年写真家と少年とチビ恐竜を巡る楽しいお話です。謝らない大人と生意気な少年が、対立から一転して不思議な友情を育んでいく、読み応えのある作品です。『新中オカルト部始動』では、中2の4人組が大暴れ。七福神と組んずほぐれつ、華やいだ明るく楽しい物語です。コミュニケーションが苦手な幼稚園児が徐々に人との繋がりを体得していく『ムシオさん』では、人を思う優しい気持ちに心が満たされていきます。
他の候補作品の多くにあった〈本来の自分を取り戻す〉というテーマは、定められたレールに乗るとか世間の常識という同調圧力への違和感からでしょうか。同時に、状況から<逃げない><急がない>という記述も見受けられました。多様性へのアプローチも複数あり、時代を敏感に映していました。

関知良プロフィール:
1957年、東京都文京区生まれ。
1980年、慶應義塾大学経済学部卒業、同年プレジデント社入社。1982年、中央公論社入社。雑誌『マリ・クレール』『GQ』『婦人公論』広告、編集企画部長、宣伝部長、2008年より雑誌編集局長、2009年取締役就任、その後文芸局長、事業戦略局長、書籍編集局長など歴任。同社主催谷崎潤一郎賞、中公文芸賞の選考会司会を7年務める。2017年常務取締役。2021年退任。2021年、早川書房入社。社長室経営企画室長を経て現在取締役待遇 編集本部長兼マーケティング部長。2023年より日本ペンクラブ監事。


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